偽りのプリンセス

書きたいことを書く

魅惑の世界。

 肌に突き刺さるような日差しと体中にまとわりつく不快な汗にまみれながら見知らぬ街を歩く。無機質なビル群の中で有象無象の人が私の周りを通り過ぎていく。みんなは何を思いどこへ向かうのだろう。行き場所のない私も周りからもそう見えているのだろうか。私はこの世界に馴染めているのだろうか。

 私はみんなのようにになりたいと思っていた。目立つこともなく、虐げられることもなくどこにでもいる人になりたいと思っていた。私は子供のころから誰かの後ろに隠れてはみ出し者にならないように生きてきた。親や先生の言うこともきちんと聞いてきたし、少しでもいい学校に行けるように勉強も一生懸命やった。そこそこの大学にも入れたし、知り合いもそれなりにできた。でもそれまでだった。二十歳を過ぎた今になってようやく気が付いた。

 ある日私はいつも一緒にいる大学の同級生達に飲み会に誘われた。二十歳になったばかりの私は、初めての飲み会に少し胸を躍らせながらその時を待っていた。しかし、いざ飲み会がはじまると私はその場の雰囲気に合わせることができずに戸惑ってしまった。お酒の世界はいつもと違う表情ばかりで怖かった。私もみんなに合わせようとお酒は飲み別の世界に行こうとした。でも、できなかった。飲んだら飲むだけ一人ぼっちの世界に行ってしまうようだった。みんなと同じ表情を作れない。みんなと同じ世界にはいけない。そして、その飲み会は気分が悪くなったからと言い残し先に帰ることにした。翌日、学校でみんなと会うといつもの通りの表情で、いつも通りの世界になっていた。その世界は本当なのか嘘なのか。どちらが本当の世界なのかわからなくなった。いや、違うんだ。みんなはみんな、それぞれの世界で生きているんだ。人の世界を真似して、人に作ってもらって満足しているのはもう私だけだったんだ。

 そうして私は人ですらなかったことに気が付いた。言われたことをただやり続けて人の物まねをしている操り人形で、ただの人形がいろいろな人の世界にお邪魔しているだけだった。その時私は生まれて初めて学校をさぼった。

 さぼった先が途中下車したこの街だった。何も知らないこの街で何をしよう。どこに行こう。さんざんさ迷い歩き、向かった先は自宅の近くにもあるコンビニだった。いつもコンビニというと誰かの後ろについて行くだけだった。自分の意志で入ったのは初めてだった。改めてみるとコンビニはとても魅力的な場所であった。たくさんの飲み物やお菓子・本やゲームに化粧品。小さな空間に魅力的なもので埋め尽くされていた。そんなことも知らなかった。コンビニという店に今まで目を向けていなかったんだ。店内を散策すると一つの商品に目が留まった。それは、よくある子供向けアニメの食玩だった。それを見た私は、幼いころ親と一緒に行ったコンビニで、どうしても当時見ていたアニメの食玩が欲しくて親にわがままを言ったことを思い出した。私にもちゃんと自分でほしいものがあってわがままを言える意志があったんだ。その時、私の世界の扉が見えた気がした。

 外に出て携帯を見るといくつかの着信があるのに気が付いた。私は携帯に新しいストラップをつけて鞄にしまった。今日は遅刻になってしまうけどちゃんと学校へ行こう。袋からアイスキャンディー取り出し、口に頬張り急いで来た道を戻った。

 

お題「コンビニ」