メランコリック街道

書きたいことを書く

瑞雨。

 目覚まし時計のけたたましい音が頭の中に鳴り響く。うるさいのに何故か体が動かない。もしかして金縛りなのかとも思ったがどうも違う。頭がぼーっとする。体が熱い。息苦しい。風邪なんだと理解するのに時間はかからなかった。

 いつまでも鳴っている目覚まし時計を後目に、今日のことを考えはじめる。今日は1時間目から体育で、しかもプールだ。朝からプール何てどうかしている。昨日の夜から雨は降らないかと必死に願っていたことを思い出した。そして数学の小テストもあるって言っていたっけな。ただでさえ算数は苦手だったのに、中学で数学になってからというものますます苦手になった。掛け算や割り算くらいまでできれば生きていけるだろう。あと今日の国語は書道だったけな。きれいな字を書くのが苦手で、馬鹿にされるから書道も嫌い。今時書道なんて使わないし必要ないのになんでやるんだろう。ああ、今日は嫌な授業ばっかりだ。風邪を引いたし、堂々と休もう。早くお母さん起こしにこないかなあ。風邪を引いて焦燥している私の姿を見せつけて今日は二度寝を楽しむんだ。

 10分くらい経ってもお母さんはやってこない。今日はどうしたのだろう。いつも何て3分も過ぎようものなら怒鳴り込んでやってくるのに。とっくに鳴りやんだ目覚まし時計を見つめて、なんとか起き上がりパジャマのままリビングに向かった。なんだか家が薄暗くぼんやりとしている。どうしたのだろう、これも風邪の症状なのだろうか。いつもは朝食を食べながらお父さんが朝のニュース番組を見て、お姉ちゃんが髪のセットをしたりバタバタとしていて賑やかなのにな。恐る恐るリビングをのぞいてみると、そこには家族の姿はなくテーブルの上に手紙とお金が置いてあるのが見えた。そういえば昨日お母さんが親戚の不幸があり早朝に出かけると言っていたことを思い出した。そしてお姉ちゃんも今日は早朝練習があるとか言っていたっけ。誰もいないことを知ると、せっかく嫌な授業を受けなくていいうえ学校も休めるのになんだかもやもやとした気分になる。とりあえず学校に連絡しようか、学校の電話番号なんだっけ、両親にも連絡しようか、風邪薬はどこだろう、とりあえずご飯かな、あと氷枕はどこだっけ、お医者さんに行ったほうがいいのかな、となんだか急に考えることが多くなってしまった。

 学校に休みの連絡を入れて、薬を飲んで直ぐに布団に戻ることにした。平日の誰もいない静かな家を一人きりで過ごすのは初めてだった。ふと、窓の外を見ると雨が降っていたことに気が付いた。どうやら昨日の願いは叶っていたらしい。これじゃあプールは中止だなと思いながら、机に飾ってある時間割表に目を向ける。すると、今日の午後には美術があることに気が付いた。私が一番楽しみにしている授業が美術だ。プールがなくなり、美術もある。少し無理してでも学校に行っていたら、体育は体調不良で休めるし数学だって保健室に行っていれば休むことだってできた。保健室で寝ていれば先生だっているし、友達にも会えるし好きな授業だけ受けられる。しかし、現実は一人寂しく湿った布団で眠るだけ。静かな空間に聞こえる雨音が一層寂しさを増幅させているように思えた。

 目を覚まして時計の針を見るともう12時を指していた。外が暗くて昼か夜かわからないくらいだ。雨はまだ降り続いている。お昼を食べるために台所に向かう。簡単でいて、今の私にも食べられそうなうどんを茹でることにする。いつもは見れない平日のお昼のテレビ番組を見ながらうどんを啜る。暖かいうどんがのどに染み渡る。いつもの風邪なら至福のひと時なのに、今日はもやもやがぬぐえない。テレビを見ながらぼんやりしていると、いつの間にかに雨はますます強くなっていることに気づいた。

 もうすぐ学校が終わる時間になる。これで私だけの特別な時間は終了だ。今日はお姉ちゃんが早く帰ってくると嬉しいけど、どうせ今日も寄り道して遅くなるだろう。期待はしないけど学校が終わるころに電話をしてみようか。ご飯の後片付けを済まして布団に戻る。しかし、今日はもう沢山眠ってしまったので眠くない。かといって本を読んだり遊んだりするほどの元気はない。仕方がないから、ただじっと天井を見つめる。相変わらず部屋の中では雨の激しい音だけが鳴り響く。それ以外は何も聞こえないとても静かな日。将来一人暮らしをして病気になったらこんな感じなのかな。それはとっても寂しいことだ。朝毎日プールに入ってもいい。嫌なテストを沢山受け続けてもいい。コンプレックスを笑われてもいい。一人ぼっちにならなきゃどんなことも頑張るから。

 おでこのあたりからひんやりしたものを感じる。誰か帰ってきたのかな。リビングの方からバタバタとした物音が聞こえる。この慌ただしい感じはきっとお姉ちゃんだ。いつも一人賑やかでうるさいお姉ちゃんの存在も今日は安心する。私はまだ一人ぼっちではないことに安心する。気づけば雨は小雨になっていた。

 夕ご飯はお姉ちゃんがお粥を作ってれた。氷枕も作ってくれたし、寝る前にホットミルクも作ってくれた。学校の友達からも学校のプリントとお見舞いの言葉をもらった。お父さんとお母さんからも電話が来た。今日帰ってくるのは難しいみたいだけど、温かい言葉をかけてくれた。明日からまた元気に学校に行けそうだ。明日の授業は何だっけなと思い時間割表を見る。3時間目に体育で、5時間目に数学の文字がある。体育はまだ病み上がりだから休むとして、数学は…まあゆっくり頑張ろう。とりあえず算数の復習からかな。心の中で小さな誓いをたてて布団に潜って目をつむる。外は静かだけど隣の部屋からはお姉ちゃんの話し声が聞こえる。いつもの日常だ。今日は不思議とうるさく無い。

 いつのまにか雨はすっかり止んでいた。

 

お題「雨の日」